読書には結末が無い

まさのりのノート

『急成長を導くマネージャーの型 ~地位・権力が通用しない時代の“イーブン"なマネジメント』を読んで

リクルートDeNA、ハウテレビジョンを経て、>2020年にベンチャーマネージャーを育成する株式会社EVeMを設立し、創業1年にしてベンチャー中心に100社以上の経営者・マネージャーにオンライン完結型のマネジメントトレーニングを実施している長村禎庸さんの書籍。

マネージャーは地位ではなく役割である

拙書『会社は仲良しクラブでいい』でも訴えていることだが、この書籍の著者の長村さんも「マネージャーは地位ではなく役割である」と数度にわたって訴えている。

背景として、1つの組織の中で完結してプロジェクトをおこなう1社完結型組織の構造ではなく、対等性(イーブン)を求められるネットワーク型の組織構造を採用する企業が多くなったことがあるようだ。

僕自身が所属する組織も、長村さんの目的と違うかもしれないが、個人に責任を背負わせ、地位や権力でコントロールする組織ではなく、ネットワークに責任を持ってもらうようなネットワーク型の組織でありたいと思っている。

新しいことを生み成功しているベンチャー企業では、コロナ禍よりずっと前から、「地位や権力を活かしたマネジメント」を嫌い、マネージャーとメンバーは単なる役割の違いと捉えた〝イーブンな関係〟で、〝地位や権力ではなく技術で〟マネジメントをしてきました。そして、これからの時代、新しいことに挑戦しようとするすべてのプロジェクトに求められるのは、この〝イーブンな関係でマネジメントをする技術〟を持ったマネージャーなのです。

「ネットワーク型の組織」「マネージャーは役割である」の二つは直感的に理解できる人と、いつまで経っても理解できない人とがいるように感じる。一方で、その逆の「1社完結型組織」「マネージャーは権力である」を理解できない人と、できる人もいる。その間には何かしら大きなフィロソフィーや見ているビジョンの違いがあるのだろう。双方相容れない様子だ。

「マネージャーとメンバーはフラットで役割の違いでしかない」ということを、その人なりの論理的な説明とセットで述べる人は多いですが、本当に「心から」そう思ってますか? フラットであると説得力のある説明をしたところで、心からそう思ってないなら、それは嘘でしょう。そういう人は、言葉に、態度に、そういうスタンスがにじみ出ています。たとえば、チームメンバーのことを「部下」という言い方をする時点で、「この人は、頭ではわかっていたとしても、体現はできていないな」と私は思います。

 

ある日、社内のマネージャー陣がこの書籍の読書会を始めたので、僕も参加しようと思い本書籍を手に取って読み始めた。果たして、ベンチャー企業におけるマネージャーはどのように機能するべきなのか。

野心的な目標を達成するには「モメンタム」が必要

野心が先なのか、モメンタムの方が先なのか。いずれにしてもその両方が急成長していくためには重要だと感じている。企業の成長を止める一番の方法は、経営者の野心を奪い、従業員からモメンタムを奪うことだと思う。

モメンタムについて長村さんは以下のように書いています。

「モメンタム」というのは、チームの中に流れる、「自分たちは必ず成功できる」と信じる気持ちから生まれる「勢い」のことです。「自分たちならば、この野心的な目標を達成できるぞ」という、チーム全体に流れる自己効力感です。

この「自己効力感」は、佐宗邦威さんの著書『理念経営2.0 ―― 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』に出てくる「センスメイキング」にも関連しているように感じる。

センスメイキングは、『決まった答えが見えないなかで、各社員がそれぞれの置かれた環境下で見ているものを自分なりに感じ(Scanning)、解釈して(Interpretation)、持ち場に戻って実行・表現(Enactment)することで、意味づけしていくプロセス』と定義されていて、おそらくセンスメイキングのプロセスを繰り返していき、各社員が前進感を感じることでモメンタムが作られていく。

モメンタムというのは、「野心的な目標に日々近づいているなという実感」です。成果がまだ出ていなくても、この実感があればモメンタムは生まれます。

小さく小分けにされた目標を達成していくことで、大きな目標に到達できる実感を持つことができる。そして、実感を持つことによってモメンタムが生み出されていき、状況によっては、自分たちのミッション・ビジョン・バリューに自信が持て、センスメイキングされていく。

企業の理念の浸透のためにも、モメンタムは起爆剤となる。モメンタムを何もないところから、もしくはマイナスから、どのように作りあげていくのか。

 

この書籍のテーマはタイトルにもある「急成長を導く」だ。ある意味、どのようにしてモメンタムを作っていくかが具体的に書かれたマニュアル本だった。

良いマネージャーってなんだろうか

僕の「マネージャー」のイメージは、ベンチャーやスタートアップなどのマネージャーのようにリーダーシップを兼ねるような存在ではなく、芸能界におけるタレントマネジメントをしている「マネージャー」のイメージに近い。タレント(能力を持つ人)達を管理して、タレント自身を活躍させ、その向こう側の会社を成長させるような「マネージャー」だ。

成果を作るのはマネージャーではなく、メンバーです。そのメンバーを大事にする、そのメンバーの本質的な成功・成長にコミットする、まずはそこ。そこだけ見て仕事をしてみなさい。 それがない状態では、何をしようが本質的な成果なんか残るわけないでしょ。

まさにその通りで、そしてなかなか難しい。

最後に、著者と僕との間で意見の食い違う部分がある。

マネージャーとメンバーは「友達」ではありません、「仕事仲間」です。その一線を越えてメンバーと友達のような「感情移入する関係」に入れば、マネージャーとしての業務は果たしにくくなります。会話の内容は「仕事中心」でおこなうべきですし、社外で時間を過ごす際も「職場の交流の立て付けで」会う必要があります。マネージャーとメンバーの相互理解は重要ですが、友達ではなく仕事仲間であるその一線を越えないように努めることが重要です。

イーブンな関係で、共通の大きな目標を達成するために働き、一定の時間を共に過ごす。その間柄は「友達」にかなり近い。『日曜日に一緒にディズニーランドに遊びに行ったメンバーに、翌日厳しいフィードバックができますか?よほど鋼のメンタルでも持ち合わせない限り、難しいでしょう。』と問うているが、それは「人による」と感じる。

僕は感情移入しやすいタイプだ。なんなら、見ず知らずの人にも感情移入する。電車で隣に座っている人にさえ、感情移入してしまうこともある。つまりは、友達であろうが、知り合いであろうが、他人であろうが、そもそも誰に対してもフィードバックは難しい。

マネージャーとメンバーのみている目標の重なり具合が大きいことと、目標到達への執着を高く持っていれば、友達であろうがなかろうが関係ないと考えたりする。目標の座標と、メンバーの方向を見て、必要があれば座標か方向のどちらかを修正をするだけであり、マネージャーはメンバーに対して状況を映し出す鏡(もしくはそういう鏡を作る人)のような存在になるといいのではないかと思う。

・・・この件に関しては議論が長くなると思う。読書には結末が無い。